インタビュー

第5回は声優の宇和川恵美さんです。

宇和川恵美さん

宇和川さんはビースマイル立ち上げ前から、本、葉月とともに児童養護施設の訪問を続けてきました。
今回3度目となる「椿の森学園」への訪問を通し、印象に残った出来事やこれから子どもたちに伝えていきたいことについて、前後編2回に分けてお送りいたします。

photo:市川真名

知らないからこそ"知る"ことができる

Q.まずは宇和川さんの現在の仕事についてお聞かせ下さい。

声優、ナレーションといった"声のお仕事"をやっています。
テレビ朝日の情報バラエティ番組『シルシルミシル』のナレーションや、ゲーム『真・三國無双』の孫尚香役などをやらせて頂いています。

Q.声優というと子ども達の憧れの仕事ですが、子どもの頃から声優を目指していたんですか?

いえ、私が子どもの頃は、まだ声優という職業が世間に注目され始めたばかりの頃でしたし、私も特に声優を目指していたわけではありませんでした。
将来について考え始めたのも高校生になってからなんです。
進路を決める時、初めて、自分は何がしたいんだろう?って考えて「そうだ!私、イベントの司会がしたい!」って。
そこで、イベントの司会の関係の仕事に就こうと思ったんです。

Q.司会者に憧れるキッカケが何かあったんですか?

幼稚園の頃の話なんですが、運動会で開会式の選手宣誓を任されたんです。
何故私が選ばれたかは分からないのですが、放課後に外で遊んでいたら先生が声を掛けてくれたんですね。
その時の選手宣誓が凄く気持ちよかったんですよ!それで衆目の中で進行を任されることの"味"をしめてしまったんです(笑)
それからは小中高と、学級会の議長とか文化祭の野外ステージの司会とか、とにかくいろいろやりました。
そして、高校卒業後の進路を決める時になって、将来は司会者をやりたいって相談したら、友達が「そういう仕事は俳優さんがやるんだよ」って教えてくれまして。
それじゃあ俳優になっちゃおう!というわけで、プロダクション付属俳優養成所のオーディションを受けて入塾したんです。
そのプロダクションが声優のお仕事も多いプロダクションだったので、今は声優のお仕事を中心に活動しています。

Q.職業として俳優を目指すというのは大変な決断だったと思いますが、ご家族は反対なさらなかったのですか?

父親には猛反対されました。
養成所に入るだけでも、倍率3倍以上のオーディションを突破しなければならないし、仮に入塾することができても、卒塾してプロダクションに入れるのはほんの数人なんです。
さらに、プロダクションに入ってからも「ジュニア」という下積みが2年間あり、そこでも査定。プロとして活動できる保障はどこにもない。そんな世界ですから・・・
だから、父親には教師を目指すと言って大学に進学することにしました。
ただ、どうしても司会のお仕事への夢が諦め切れなかったので、母親に相談し、大学と養成所の両方に通う生活を始めたんです。
それを知った父親からは「俺の前で俳優養成所のことを口にするな」と言われました。そして、「プロダクションに入る際の最終オーディションに合格してから、もう一度話を聞こうじゃないか」と。

Q.お父様なりの最大の譲歩だったんでしょうね。

そうかもしれませんね。本当は教師になってもらいたかったんでしょうけれど・・・。
当時はとにかく忙しかったです。俳優養成所の学費の為にバイトもしていましたし。
でも楽しかったですよ、夢に向かって頑張るのは!
だから、最終オーディションに合格した時は本当に嬉しかったです!

Q.俳優養成所では声優の授業などもあったんですか?

私の通っていた俳優養成所では、声優専門の授業はほとんどありませんでした。
当時は声優という職業がまだ確立されていませんでしたから。
プロダクションに入ってから声優のお仕事をもらい、声優の技術はその現場で少しずつ身に着けました。
今は声優学校もあるので、声優を目指す方はそういった学校に通うと良いと思いますよ。

Q.ビースマイルの活動に参加することになったキッカケを教えてください。

副代表で友人でもある漫画家の葉月先生から、児童虐待や、児童養護施設で生活する子ども達についての話を聞き、「恵美ちゃんもボランティアを一緒にやってみない?」と誘われたことがキッカケです。
最初は困惑しました。ボランティアといっても、いったい私に何ができるのだろう…って。
だって私は、虐待を受けている子ども達のことも、そういう子ども達を養護している施設のことも、詳しいことは何一つ知らないんですから。
でも、そこで思ったんです。何も知らないからこそ"知る"ことが出来るんじゃないかと。
まずは知ることを始めて、それから少しずつその先の"出来る事"を考えていけばいいかなと。
それともう一つ、私はナレーションのお仕事で、社会問題を取り上げる報道番組に関わることが多いんですね。
ですからこうした問題も決して自分と無関係では無い、むしろこれから密接にかかわってくる問題になるかもしれない、そんな気持ちもありました。

Q.『椿の森学園』を訪問してみて、何か印象に残った出来事はありますか?

最初の訪問の時は、やはり「私に何が出来るのだろう?」って気持ちが心の中に強くあったんです。
でも、施設の子ども達の中に一人、アニメが凄く好きで声優に憧れている女の子がいるという話を聞いたんです。
もしかしたら私でも力になれるかなと思い、その子に会いに行ったんです。
「こんにちわ~」私は女の子に声を掛けました。でも、その子は何も言わずうつむいたまま・・・。
他の子が「声優さんが来てくれたんだよ」と言ってくれたので、私も「声優好きなの?」聞いてみました。
すると、女の子は小さな声で「別に・・・」と一言。
あれ?
私「アニメ、観るの?」
女の子「観ない・・・」
あれ???声優が好きって聞いていたんだけれど・・・、もしかして凄く人見知りなの子なのかな?
それとも突然の出来事で警戒しているのかな・・・?

※次回につづく

宇和川さん漫画

■取材後記■

"知る"ことが全てのスタート。
この宇和川さんの言葉にドキリとさせられました。
現代はテレビやインターネットで情報が気軽に手に入る時代です。
私達は、人とのふれあいの中から自ら発見し"知る"ことの機会を得る能力が衰えてはいないでしょうか?
子ども達の発するシグナルを見過ごしてはいないでしょうか・・・?

次回、宇和川さんのインタビュー後編、お楽しみに!

取材:柏葉 比呂樹

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