インタビュー

第6回は声優の宇和川恵美さんのインタビュー後編です。

宇和川恵美さん

父親に反対されても努力を続け、声優になる夢を実現させた宇和川さん。
「椿の森学園」の子ども達と出会い感じたことや、自分の経験を通して子ども達に伝えたいことなどについてお話を伺いました。

photo:市川真名

子ども達にとって「一滴の水」になりたい

Q.前回は『椿の森学園』を最初に訪問した時に、声優に憧れる女の子に出会ったというお話でした。
声を掛けたけれどコミュニケーションがうまく取れなかったと…

そうですね。やはり初対面なので警戒されているのかな?と感じました。
しかし偶然にも、声優である自分が、声優に憧れる子と出会った、この巡りあわせを大切にしなければ!と思い、一緒にマンガの読み合わせをする?と誘ってみたんです。すると、女の子は小さく頷きました。
読み合わせと言うのは、台詞を声に出して読む"表現の稽古"のことですが、その読み合わせを始めた途端、さっきの小声が嘘のように女の子の様子が変わったんです。
声をしっかりと出し、キャラクターの雰囲気も考えて感情豊かにどんどん読み進めていくんです!
ビックリしました。だって、さっきまではうつむいてコミュニケーションも上手く取り合えなかったんですから!

Q.読み合わせというのは、初心者が本をパッと見ただけですらすらできるものではないですよね。

そうなんです。あんな風にしっかり読み合わせが出来るということは、彼女が日頃から、マンガやアニメを観て一生懸命に真似や練習していたということなんです。
それを目の当たりにした時、マンガやアニメが本当に子ども達の"夢"や"力"になっているんだな、凄いなと実感しました。

Q.その後、その女の子には会いましたか?

はい。2度目の訪問の時には、彼女の方から「恵美ちゃ~ん!」って話しかけてきてくれたんです。
今度はしっかりと私の目を見て話してくれて、二人でいろんなことをお喋りしました。
3度目の訪問の時は、声優の事を自分なりに調べていたみたいで、発声練習の方法や、表現の技法で疑問に思ったことを、私に色々と質問してきたりしたんです。
訪問を重ねる度に、少しずつ彼女が変化していくのを感じました。
それが凄く嬉しかったです。

Q.女の子の中で、声優が憧れから目標に変わったのかもしれませんね。

そうですね。3度目の訪問の時、施設の職員さんが女の子の普段の様子を教えてくれたんです。
「彼女は宇和川さんに会ってから、ずっと発声の練習をしてるんです。
そして、以前は上手く取れなかった他の子達とのコミュニケーションも、少しずつ取れるようになってきたんですよ。
子ども達にとって色々な大人に会うことは、とっても大切なことなんです」って。
その話を職員さんに聞いた時、以前、あるテレビ番組の中でコメンテーターが言っていたことを思い出しました。
『子ども達の受けた虐待の傷は絶対に消えない。でもその傷跡を薄めることは出来る。
コップに入れた一滴のインクを、プールに入れた一滴のインクにするように』
私は、自分がそのインクを薄める"一滴の水"になれたら、
子ども達が未来に夢や希望を見つけ、それに向かって歩いていけるよう少しでもお手伝いできたら、と思いました。
この体験を通して、施設を訪問するという活動の意義を見つけられた気がします。

Q.最後に、夢を見つけた女の子、そして夢を探している子ども達に一言お願いします。

じつは私、養成所時代に友達に「ちょっと滑舌が甘いね」と言われて悩んでいた時期がありました。
私にこの仕事は向いているのだろうか?って。
そしたら養成所の先生に「仕事に向いてるか向いてないかはプロである私達が判断する事で、お前が判断する事じゃない!」って叱られたんです。
その一言があったから諦めず声優になることができました。
声優の仕事はアニメからナレーション、ゲーム、店内放送、電話のガイダンス等など、本当にたくさんあるんです。
「普通の声だから声優になれない」とか「アニメ声だから声優になれる」とかじゃないんです。
大切なのは"自分はこうしたい"という気持ちと、挑戦する"勇気"だと思うんです。
だから皆には、夢や目標を見つけたら自分でその可能性を摘んでしまわないで、諦めずどんどん突き進んで欲しいなって思います。
そして○○ちゃん(施設の女の子)!声優になったら一緒にお仕事したいね。私も頑張るよ~っ!!

宇和川さん漫画

■取材後記■

やりたいことが見つかったら何でも経験として捉えられるんです。それが凄く楽しい。
そして、目の前の壁にぶち当たっても、今の自分に満足できなくてもそれが成長の糧になる・・・そう信じていろいろな事に取り組んでいきたいですね!
そう語る宇和川さんのどこまでも前向きで明るい笑顔がとても印象的でした。
お忙しい中、本当にありがとうございました。

次回は『オレたま~オレが地球を救うって!?~』で、マンガガイドの決定版「このガマンがすごい!2008」第1位受賞の瀬口たかひろ先生の予定です。
お楽しみに!!

取材:柏葉 比呂樹

ページトップへ