インタビュー

第7回は漫画家の瀬口たかひろ先生です。

瀬口たかひろ先生

奥様がお読みになっていた※『凍りついた瞳』というマンガをきっかけに、児童虐待の現状について認識を新たにしたという瀬口先生。
友人の葉月京先生を通じ、今回初めてビースマイルプロジェクトの施設訪問に参加しました。

子ども達と接して改めて感じたこと、考えさせられたことなどについてお話を伺いました。まずは前編です。
※注釈:『凍りついた瞳』ささやななえ/椎名篤子(集英社)

自由より選択肢を求める子ども達

Q.まずは瀬口先生が現在連載している作品を教えてください。

増刊ヤングガンガンで『僕のアイドロイド』を連載しています。
去年の暮れから今年の初めにかけてヤングアニマルで連載していた『死に至る病』とヤングアニマル嵐で連載中の『オレたま』が完結しまして、ちょうど一息ついているところです。
4月か5月からタイトルは未定ですが新連載を予定しています。

Q.瀬口先生はどういったキッカケで漫画家を目指されたのですか?

僕の場合は消去法だったんです。
「野球選手になりたい」とか「勉強で一番になりたい」とか、いろいろな憧れを上から消していったら最後に漫画家が残ったといいますか。
むしろ、漫画家を一生懸命に目指さないと、本当に何も無くなっちゃうぞって感じでしたね(笑)
一番のキッカケは、高校生の頃一つ上の先輩が漫画家デビューしたことです。
「漫画家になる」ということを身近な人を通して感じることができた。
そのことは大きかったと思います。
それで、僕も頑張れば漫画家になれるんじゃないか?って思ったんです。

Q.やはり小さい頃から絵を描くのは得意だったんですか?

漫画家になる人は絵が好きだったとか得意だったという人が多いんですけれど、僕はあまり好きじゃなかったんです。
どちらかというと学校の美術の授業は面倒くさかったですね。
授業で描くものって静物画や風景画ばかりじゃないですか。僕はそれが苦手でして・・・
たまには女の子を描く授業とかがあれば皆美術の時間が楽しくなるんじゃないかな~。
ただ単に僕の好みなんですけれど(笑)

Q.確かに中学・高校の授業では好きなモチーフで絵を描くスタイルの授業は少なかったですね。

僕が絵を描くキッカケになったのは、中学の頃に観た宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』だったんです。
だから、ナウシカみたいな可愛い女の子が描きたかった。
でも、授業では漫画絵は描かせてもらえないですしね。

Q.漫画家になるために何か特別な勉強はされたのですか?

特別と言うほどでもないですが、市販されている骨格の本やHOW TO系の本を買ったりして、それを観ながら絵を描いてました。

Q.出版社の多くは首都圏にあります。瀬口先生は福岡で活動されていますが、仕事を進める上で何か不自由はありますか?

編集さんとの打ち合わせはFAXと電話でやり取りしていますし、そういった面で不自由さは感じませんが、唯一の問題はアシスタントさんを集めにくいことですね。

Q.漫画家を目指す子ども達に何かアドバイス等ありましたらお願いします。

漫画というのは自分の気持ちを伝える一つの手段だと思うんです。
ですから、今回の訪問で漫画を身近に感じてもらうことによって、子ども達が未来に多くの選択肢を感じてくれればうれしいです。

Q.今回「椿の森学園」訪問とチャリティ野球イベントに参加なさったわけですが、瀬口先生にとって、こうした施設への訪問やそこで暮らす子ども達との触れ合いは初めての体験と伺いました。率直に言ってどのような印象をお受けになりましたか?

そうですね・・・子ども達の表情が少し硬いなという感じがしました。
野球イベントでのことですが、試合でヒットを打った女の子、良いピッチングをした男の子、活躍した子ども達がたくさんいたのに、なんとなくその時の表情が硬いんです。
もう少し喜んでも良いんじゃないかな?と思う場面がいくつかありました。
あと、野球の試合の前日、大家選手を迎える横断幕につける飾りの花を作っていたのですが、すごく集中して作業する子とそうではない子。
子ども達から伝わってくる感情が両極端なように感じました。
もしかしたら、彼らは感情を表現するのが苦手なのかもしれないなあ、と。
あと、園長先生がおっしゃっていた言葉が印象に残りました。
『子ども達と絵に色を塗る時、「好きな色を塗っていいんだよ」と広く選択肢を与えると、彼らは手が止まってしまってパニックになってしまう。
でもそこで、「僕だったら青をぬってみるなあ」と選択を絞って与えると、子供たちは自由にのびのびと塗ってくれる』と。

もちろん青以外の色を塗ったからといって、それを否定をするようなことはしないわけですが、なるほどと思いました。
僕も仕事場でアシスタントに「自分の思った色を塗れ」と指示を出すことがあるんですが、そういった場面で、ハートが弱い子はすぐにテンパっちゃうんです。
でも、言葉ひとつでそういう弱い部分をカバーし、力を伸ばしてあげられる事もあるんだなと、改めて考えさせられました。

Q.選択肢を与えられないと自由に自己表現ができないというのは、自分たちが考えていること、感じていることをうまく表現できなかったり、表現するのをためらっていたりするのかもしれませんね。

そうですね。それともう一つ、子ども達の様子で気になったのは、 「興味があることにはものすごい集中力を発揮するのに、それ以外のことにはものすごく淡白」ということです。

Q.周囲のことに関してドライである、ということでしょうか?

それだけではないと思います。

瀬口先生漫画

■取材後記■

施設の訪問は初めてという瀬口先生。実際に現場に足を運び、子ども達と触れ合うことで、改めて気づいたことが多かったとおっしゃっていました。

次回後編は、瀬口先生が施設の訪問で気づいたこと、感じたことを中心にお送りします。お楽しみに!

取材:柏葉 比呂樹

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